My Name Is?











「サンジ?」
冬の寒さに突如別れを告げた春の昼下がり。
少し動けば暑いと感じるような、それでも心地の良いその日差しにゾロは目を細めながら 発見した探し人の名を呼ぶ。
適度に吹く風と穏やかな陽気に負けてしまったのだろう彼は珍しく庭へと繋がる縁側へ 足を投げ出し眠っていてゾロの声に反応を示すことは無い。
思えばサンジの居眠りする場面に出くわすなんて相当久しぶりのことだった。
サンジがまだゾロの腰の高さにも届かないほどの頃まではそれこそ当たり前のようによく見た 光景だったけれど、目線が近くなるにつれてサンジは居眠りをするよりもゾロと話している 時間を優先することを選んだようで、 今では逆にゾロの方が起こされることの方が多い。
「お前ももう14だもんな」
ふ、と吐息のような笑みを零して早いものだと眠るサンジの隣に腰をおろす。
サンジに用事があったのだけれどそれほど急ぐことでもない。


出会った時、水難事故で両親を亡くしたサンジはまだそれを哀しいと感じることさえも出来ない 赤ん坊で、ただ目まぐるしく変わり行く己の運命に流されて居る事しか出来ない弱い存在だった。
そして運命に流されているだけなのは当時幼かったゾロも同じ事で、 あぁこの子供はなんて可哀相なのだろうと、そう思っていた。
自分と同じような人生を歩むのかもしれない。孤独を孤独とも感じることの出来ない、そんな人生を。
しかし次の瞬間、サンジはゾロの指を力強く握ってそして、笑った。
赤ん坊が笑うことなんて当たり前のことだ。幼いながらにそれは分かっていたけれど その彼の笑顔を見たその瞬間、幼い闇に震えていたゾロの中で何かが変わった。
手を握ってくれたサンジをずっと護っていきたい。この赤ん坊を自分と同じように孤独の中に 置いていてはいけない。
そう思ったその時、生きる意味を見つけたと、ゾロは確信したのだ。
そして時は経ち、気付かぬ間に自分は社会へと出、サンジはこの春で中学2年生になる。
腰の高さまでしかなかった背は伸びてもうゾロの肩に近い。
まだまだ伸びる時期だからこれからもっとサンジの背丈は伸びていくだろう、 もしかしたらゾロを越える日が来るかもしれない。
それを心から喜ばしいと思う反面で少し寂しく思う。
面と向かって口にしたことはあまりないがゾロはサンジあ可愛くて仕方が無いのだ。
完全に手が離れてしまっては正直辛い。これが親心なのか。
サンジにはずっと幸せでいて欲しいし、いつまでも笑っていて欲しいと思う。
だからこんな風に無防備に眠っているサンジを見ると心が温かくなるし口元にも笑みが零れた。


「・・・なのに、俺は何にも聞いてやれないな」
深く溜息を吐いて言えばそれに応えるように風が吹く。
ここ最近、サンジは何かに悩んでいるようだった。 迷っているといっても良い。
普段はいつも通り明るく笑っているのだけれど何かの拍子でその笑顔が急に崩れる事があるのだ。
気付けば何かを考えるように眉根を寄せたり、辛そうに唇を噛み締めている。
何か辛いことがあるのなら相談に乗ってやりたいと思う。
けれどそれを拒絶するようなその笑顔にいつも口を噤んでしまうのが実情だった。
護ると決めたのに何を抱えているのかさえも聞いてやれないなんて情けない。
しかし苦悩するサンジの表情はひどく大人びていて、サンジがもうあの日の、運命に流されている だけではないと告げるようでもあって、それが余計にゾロの口を閉ざす理由にもなっていた。
もしかすると自分はそんなサンジの変化が恐いのかもしれない。 だから何も聞けないのではないか。 サンジの今は閉じられた目を見てそんなことを思う。
苦悩している時も、ふとした表情の一つひとつでも近頃のサンジの目は大人びているのだ。
昔のままではいられないとゾロにそっと教えるように。 もう護りはいらないと訴えるように。
けれどサンジはそれを決して口には出そうとしない。ゾロがサンジを護りたいと思っていることを 知っているからだ。
変わってしまったのはサンジか、それとも自分なのか。
分からない事が多すぎる。
しかしこのままではいけない、そんな気はしている。このままではきっと自分は後悔する。
そんな予感はしているのに、何を自分は恐れているのか。ゾロは小さく溜息を吐いた。


「・・・相変わらずキレーな髪だな」
渦巻くそんな思いを断ち切るように、春の日差しにきらきらと反射する金の髪を指で梳けば 昔と変わりない感触が返ってくる。
母親譲りだと言う金色の髪は本人はストレートだと言い張るけれど水に濡れれば 少しウェーブが掛かるくせっ毛で手触りが良い。
こんな風にゆっくりとサンジの髪を撫でたのはどれくらい久しぶりだろうか。
思い返せば随分と触れていなかった。最後に触れたのはきっと居眠りする姿を見るよりも前のことだ。
昔はこうして髪を梳く度に見せるくすぐったそうな笑顔に何度も癒された。
ゾロの口元に自然と笑みが戻り始める。
「ん・・・・」
「悪い、起こしたか?」
「・・・・・・・・・」
突然身じろいだ身体に思わず手を離して謝罪をするがただ擽ったかっただけなのか サンジは起きる様子もなく仰向けになっていた身体をごろりと半回転させ横向きの姿勢になる。
ゾロの方にちょうど顔が向く方向だ。先ほどよりも少しだけ近くなってサンジの顔立ちが 金色のまつげまではっきり見えるようになった。
こうして黙っていればまるで人形のような顔立ちだ。
「・・・・まだ、起きるなよ」
ふいにそのまつげに触れたくなってゆっくりとその場所へと手を伸ばす。
すぐに触れたのは長い、髪の毛よりも柔らかな感触。眠っているサンジはいつもからは 考えられないほどに大人しい。
護ってやりたい。どんな困難なことがあっても自分の出来る限りでこの少年を護りたい。
好きだと告げる今をいつか間違いだったと笑う日がきっと来る。その日が来ても、 いつか自分の元から巣立ってもいつまでもサンジには笑っていて欲しい。
「・・・・・・・・・・」
ゆっくりと、まるで引き寄せられるように身体がサンジの方へと傾いていく。
距離が近い。こんなにもゆっくりと鼻先が触れ合いそうなほど近づいたのは初めてではないだろうか。
ふわんと香るのは春の匂いとサンジの匂い。
ゾロの影がサンジを覆った。




「ん・・・ゾロ・・・・・・」
「・・・・・・・っ!!!」




唇が触れる寸前、密かだけれど確かに空気を裂いたその声に力いっぱい身体を仰け反らせる。
今、自分は何をしようとしていたのだろうか。
先ほどの呼びかけは寝言だったようでサンジはまだ健やかな寝息を立てている。
そうだ、ここに居るのはサンジだ。生まれた時から見守っていた弟のような存在。
それなのに一体、自分は何を。
次第に身体中がどくん、どくん、と大きな音を立てて震えが止まらなくなる。
しかしこれ以上サンジの側に居るとダメになりそうでもつれる足でどうにか立ち上がる。
あつい、アツい、熱い。
この熱さが恐くて堪らない。




『ゾロ、すげー好き』
逃げ込むように自室に帰り脳内に響くのはサンジの声。
その言葉を若さが引き起こす過ちだと言っていたのは自分のくせに。
何故昔とは違う、大人びた声まで記憶の中に蘇るのか。
「落ち着け、俺・・・」
ドン、と強めに叩いた胸が生理的な苦しさを生む。
サンジはずっと護っていきたいと思っていた存在でこれからも護っていきたいと願う存在で。
そんな相手に未遂とは言えあんなことをしようとするなんて気が狂ったとしか思えない。
あれも親心だと言えるだろうか。そう考えてすぐそんな事は出来ないと首を振る。
あの時の自分に芽生えた親心なんかじゃなかった。


あれは、欲情だった。






何かが変わり始めるその瞬間を、ゾロは深すぎた深呼吸で誤魔化した。















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はい、というわけで10万HITオーバー記念小説第二弾です!
今回は10歳年の差の二人、ゾロにとっての始まりです。
サンジの始まりはいつも書いてたので今回はゾロのを!と思ったんですが
私この設定のゾロはデフォルトを思い悩む性格にしてたので最後はこうなりました。
そこまで悩まんでも・・・。と思うほどこのゾロには悩んで欲しいです。
ほら、うちの原作のゾロの分もちょっとは!(とばっちり)
少年サンジは眠ってると綺麗に見えるのではないかと思われます。
そんなサンジに無意識に欲情しちゃうゾロ。でもそれって凄い罪悪感。
で、勘の良い方は。というか10歳年の差を熟知してくださってる方はお分かりかと
思いますがこの後すぐにサンジはゾロの前から姿を消します。
空白の3年間の始まりですね。詳しくはシリーズページどうぞ(笑)
でもあの辺のお話も一旦降ろしてもう一度書き直したい所存ですね。
てか肝心の悩んでるサンジをまだ書いてないっていう(笑)


話が逸れましたが10万HITありがとうございました!
さて、今回も例にもよってフリー配布させて頂きますので
もしお気に召しましたら是非もらっていってやってくださいませ。
期限は特に決めてません。古い作品に耐え切れなくなったらまたここに「終了!」と書きます(笑)
基本的に煮ても焼いても構いませんが掲載してくださるページやその付近に
当サイト名と管理人名をご明記ください。
報告やリンクなどは不要です!








2009年4月10日 ニチカ













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