What's Your Name?











トントントン、と軽やかなリズムを乱すように差し出されたそれに、サンジは手を止めて 無言でその手を見る。
勿論それは主が誰かだか分かっていたからこその行動だった。 もしこの手がサンジの敬愛してやまない航海士と考古学者であればとびきりの笑顔で目を合わせたし、 むしろキッチンに入った瞬間から歓迎の言葉を口にしていたに違いない。
でも生憎キッチンに現れてそれを差し出したのは彼女達ではない。 だからサンジは無言で、しかも少し訝しげにその手にのみ目線を送っていた。 もしかするとこれが愛らしい船医であっても、無邪気で憎めない狙撃手、船大工、音楽家、船長でも こんな反応はしなかったのではないかと思う。憎まれ口を叩いてもきっと目くらいは合わせていた だろう。
とにかくサンジは声を掛けられる前から、目線を合わせていない今でさえも手の主が誰であるか 知っていたのだ。そしてその主がその存在であるからこんな態度を取っている。 気配をよむまでもなくその存在に気付いた事を光栄だとかは、まるで思わないけれど。


「で?何でお前が花なんか持ってんだよ、クソ似合わねぇ」
「…俺だって持ちたくなかったっーの」


めんどくせぇ、と続けて呟いた手の主に眉間の皺を深くして 漸く顔を見やれば思った通りの男の姿と不機嫌そうに歪められた唇が目に入る。
海に焼けることなんて気にしたこともないのだろう随分と傷んで見える緑の髪が 相変わらずマリモのようで癪に障った。
何がそんなに気に入らないのかは分からないけれど、出会ったその時から この男に対しては良い感情を持ったことがない。
サンジは基本的に博愛主義者だ。自他共にそれを認めている。いくら男が嫌いだからと言って、 信念を持っている男になら微笑むことはなくともサンジなりに優しく接していたし、意味もなく 苛立つこともなかった。
だから今までこんなに気に入らない存在は初めてなのだ。 博愛主義者は変わりないはずなのにこの男のことになると髪の毛一本でさえも癪に障る。
こんなことまるで子供じみているから口にしたことはないけれど多分、 自分はこの男の事が嫌いなのだろう、と息を吐く。
それに反応するようにゾロの眉がピクリと上がって、手にした花が微かに揺れた。
やはりそれさえも気に食わない。


「ナミがお前にこれ渡せってよ」
「ナミさんが?てことナミさんからのプレゼントか?!」
「…さぁ?キッチンに飾っとけって」


ナミからのプレゼントかもしれないと思うと嬉しくなるが、やはり ゾロが持っている、というだけで嫌ってしまいそうになるその花から早く目を逸らしてしまいたくて、 でも一応崇拝する彼女の息が掛かったものを粗末にするわけにも行かずサンジは とりあえず花だけそこに置いていけ。と促してまた作業に戻る。
ナミがどういう理由でゾロに花を、しかも一輪だけ持たしたのかは知りたい所であったけれど、 それをゾロと話し合うつもりはない。
それほどに今のこの空間にこの男と居る事の方が苦痛に思えた。
長い間旅を共にして確かに人として認められる部分があることは認める。
でもどうしてもこの男の側に居ると苛々してしまう。
本当に、どうしようもないのだ。この感情だけは。


決して狂わない包丁のリズムとは裏腹に胸がざわついてそれが狂いそうになって胸が騒ぐ。
早く出て行って欲しい。それなのに今までの不機嫌そうな表情を一変させて、 何故かゾロはサンジから目を離そうともしない。
もし明確にこの男を嫌いな点を一つ挙げられるならばきっと、この目だ。
この馬鹿みたいに真っ直ぐで、後ろなんて見ない赤褐色の瞳。
ゾロは相手が誰であろうと今のように目を逸らすことをしないのだ。 それが一番腹立たしい。自分との違いをまざまざと見せつけられているようで腹が立つ。
「・・・・相変わらず分かりやすいな、お前」
不機嫌なオーラでも出ていたのだろうか溜息を吐き出してゾロがそれでも 「まぁ良いけど」と呟いて それ以上は何も言わずゾロがサンジの胸ポケットに花を挿しいれる。
こんな物をこんな所に入れてどういうつもりか。その気障ったらしいやり方に これを用意したのがナミだということも忘れて 「こんなものはいらない」そう言いそうになったその瞬間、満足したようにゾロが背中を向ける ことでその言葉を遮った。
一体なんなのだ。どうしてこんなに心が乱れる。分からない、この男の存在も。
こんなにも苛立つ、自分自身も。
呼び止める声もなく立ち尽くしているとでも、とゾロが足を止める。




「そろそろ素直になりな、クソコック」




――俺の事、好きなんだろ?




「な・・・・っ!ふざけんな!!」
サンジの怒号とも取れる叫びを軽い笑顔で聞き流してゾロが甲板へと繋がる扉を開く。 その後姿はいっそ潔いほどに迷いがない。
しかしサンジはそういう訳に行かない。思わず包丁を手放してカウンターキッチンに 額を当てるようにして屈み込む。
今あの男は何を言ったのだろう。 自分があの男の事を好きだと言ったのか。そんな事天地がひっくり返ってもありえない ことを堂々と、いつもの自信に満ちたその瞳で。
何を馬鹿なことを。そんなことは有り得ない。
そう確信しているはずなのにポケットに入れた花から熱さが胸にまで広がってそれがどうしようもない 苦しさを生む。
そうだ、好きなんて事はない。それなのに何故。何故自分はこんなにも動揺しているのだろう。
何故こんなにも、胸が痛くなるのだろう。
「ちくしょ・・・やっぱあんな奴クソ嫌ぇだ・・・」
訳が分からない、と小さく呟いたそれが虚勢じみてキッチンに響いてそれを打ち消すように 大きく舌打ちをする。
サンジは自他共に認める博愛主義者で嫌いな人間なんて今まで一人としていなかった。
ずっとこんな風に誰かを嫌いになることもなく、そしてその代わりに誰か一人を特別な感情を 持つことなくこの人生を終わるのだと思っていた。
それなのに、あの男だけは出会ったときから違っていた。その存在の全てが特別だった。 初めて好き、やどうでも良い、などではなくて嫌い、とそんな感情を持ったのだ。
だからと言ってそれが何になるのだろうか。何になるわけもない。
ポケットに挿されたのは深紅の薔薇。その花の持つ意味を考えるのでさえも今は煩わしい。




もう一度大きく舌打ちをしてその花弁をじっと見つめる。
ポケットの中の一輪花が何かに気付いてしまいそうな心を笑うように小さく揺れた。
















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はい、というわけで何と10万HITですよ!
今回はカウンタが廻ってから随分経ってしまってからのお礼小説なんですが
折角の10万HITなので新しいスタート的なものをお題に3つのシリーズを順に
アップしていこうと今決めました(おい)
というわけでまずは原作設定です。甘さが無いのはいつもの事なんですけども・・・。
今回ちょっとサンゾロの逆みたいになっちゃったかなぁと反省してます。
でも私サンジは博愛主義者で冷たくて優しい人、それなのにちょっと馬鹿。
というのが理想なので書きたいサンジ像は書けたのではないかと思ってます。
サンゾロの二人はホントいつくっついたか私の中で未知数です。
一歩間違ったら一生くっつかないような気もしてます。
なので当サイトには色々な始まりがありますがこれもまた一つの始まりという事で。


さて、今回も例にもよってフリー配布させて頂きますので
もしお気に召しましたら是非もらっていってやってくださいませ。
期限は特に決めてません。古い作品に耐え切れなくなったらまたここに「終了!」と書きます(笑)
基本的に煮ても焼いても構いませんが掲載してくださるページやその付近に
当サイト名と管理人名をご明記ください。
報告やリンクなどは不要です!


10万というとんでもない数字までこれたのはひとえに皆様のおかげです。
もう若干信じられませんがこれからもマイペースにサンゾロを愛して行こうと思っています。
ので、これからも暖かく見守っていてやってください!
では、10万HIT本当にありがとうございました!





2009年4月6日 ニチカ













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